タマムシ
2023.07.27 Thursday
午前中、境内の坂道を歩いていると、太陽の光に反射するものが目に入ってきました。一体何だろうかと近づいて見ると、昆虫のタマムシでした。連日の猛暑が関係するのかわかりませんが、すでに息絶えていました。
坂道で息絶えていたタマムシ
宝石のようなタマムシ
タマムシといえば法隆寺所蔵の国宝・玉虫厨子(たまむしずし)が有名です。玉虫厨子という名が示す通り、タマムシの羽を利用して作られたそうです。一度でもタマムシの羽の輝きを目にすれば、何かに使用したいという昔の人の気持ちがわかるような気がします。
国宝 玉虫厨子(法隆寺所蔵) 「日本の国宝」(朝日新聞社)より
玉虫厨子には9083枚(4542匹)もの羽が使われたそうです。
玉虫厨子の左右には仏教説話に関する絵が描かれています。
左は施身聞偈(せしんもんげ)図、右は捨身飼虎(しゃしんしこ)図。
施身聞偈(せしんもんげ)
お釈迦様が前世で雪山童子として修行なされていた時のこと。帝釈天が羅刹という鬼の姿に変えて雪山童子の修行が本物であるかどうか試されました。羅刹は童子に近づき「諸行無常(しょぎょうむじょう)、是生滅法(ぜしょうめっぽう)」と唱えました。童子は偈文の後が知りたく、羅刹にどうすればよいか聞いたところ「お前の肉が食べたい」といいました。童子は「わかりました」と答え、羅刹は「生滅滅已(しょうめつめつい)、寂滅為楽(じゃくめついらく)」と唱えました。童子は岩壁に偈文を書き残し、羅刹に食べてもらえるよう崖から身を投じました。その後、童子の修行は本物であると羅刹から帝釈天に変わり、両手で助けられるという話を玉虫厨子の左側に描かれております。
捨身飼虎(しゃしんしこ)
お釈迦様が前世で薩埵太子(さったたいし)という王子様であった時のこと。七匹の子虎を連れた母虎ともども餓死寸前の姿を目にしました。薩埵太子はその姿を憐れみ崖から身を投じました。おかげで肉を食べた母虎と七匹の子虎の命は助かったといいます。玉虫厨子の右側に描かれております。
どちらの絵も異時同図法という一つの構図に三つの場面が描かれております。施身聞偈・捨身飼虎の両図は忘己利他(もうこりた)という、おのれを忘れて他を利する(※天台宗・伝教大師)という、慈悲がテーマとなっています。昆虫のタマムシを通して仏教の慈悲について考えさせられたひと時でした。